リハビリを行っていく上で避けて通れないのが、ADLの評価やQOLを考えることなのですが、この「ADL」や「QOL」の意味をしっかり理解できていない人も多いです。
そこで今回はADLとQOLの相違点について詳しくお伝えしていきます。キーワードは目標転換です。
最初にQOLとADLを簡単におさらいしておきましょう。
QOLはQuality of Life>の略で、「生命の質、人生の質、生活の質」と訳されます。
分かりにくければ「生きがい」と考えればいいでしょう。人生や生活における生きがいを考えるということです。
ADLはActivities of Daily ivingの略で、「日常生活動作」と訳されます。
ADLに含まれるものとしては、食事、更衣、整容、排泄、入浴があり、起居動作として立ち上がりや歩行が要素として含まれます。
ここで大事なことが2つあります。まずひとつが、QOL=ADLではないということです。QOLを構成する要素の一部分にあるのがADLですが、ADLがQOLとイコールではありません。
もう1つは、多く理学療法士、作業療法士、ケアマネージャー、介護福祉士、ヘルパーが勘違いしているのですが、ADLの改善してもQOLの向上にはつながらないことがあるということです。
ADLは基本部分
理学療法士の学生時代に授業でこんなことを習いました。
ADLを改善してQOLを上げることが私たち理学療法士の仕事
そのときは妙に納得して、実習のときや新卒の頃にはADLを改善してQOLを上げるんだと意気込んでいました。ただADLの改善がQOLの向上に直結しない場合がでてきます。
たとえばある方の生きがいが夕食時の晩酌だっとしましょう。胃がんで胃を全部摘出して、廃用(=筋肉が弱ること)を改善するためにリハビリをしたとします。
筋トレや歩行練習をすれば、トイレにも行けるようになりますし、お風呂にも一人では入れるようになります。そういう意味ではADLの改善には成功したはずです。
ただADLは改善しても晩酌ができるかどうかは別問題です。外科医と相談して、胃の状態をみながら少しずつお酒を始めるしかありません。
これをスポーツに例えてみましょう。ADLというのは、サッカーでいえばリフティング、野球でいえばキャッチボールなど、本当に基礎レベルのことです。
ボールリフティングの世界王者は曲芸師のようにボールを落とさずにリフティングできますが、サッカーは上手ではないこともあります。
リフティングだけがサッカーの構成要素ではなく、走ったり(速さ、持久力)、チーム内で連携したり、ボールを強く蹴ったり(シュート、パス)、たくさんの構成要素があります。
「リフティング=サッカー」の上達なら、リフティング世界王者は間違いなくサッカー日本代表に入りますよね。
これと同じように、更衣することが上手になったとしても、その人の人生や生活が更衣だけで成り立っているわけではありません。更衣以外にもその人を構成するたくさんの要素があります。
自分の生活でも食事、更衣、整容、排泄、入浴以外に生きがいがあると思いませんか。読書であったあり、ゲームであったり、子どもや孫の世話という方もいらっしゃるでしょう。
私の場合はパソコンでブログを更新することですが、これらはすべて日常生活動作には入ってきません。
要は目標転換の視点を持てるかどうかが重要だと思います。
ADLの改善を目標にするのではなく、QOLの向上を目標にどうしていくべきか、そういう視点で患者さんや利用者さんと接していくべきです。
QOLを向上するためにADLはどうするかという視点です。
スポンサードリンク
QOLはその先にある
こうして話していると、病気やケガの前状態に戻したり、すごく高いレベルのQOLを目指すべきと思われるかもしれませんね。
いやいや、そうではありません。QOLは病気やケガの前に戻したり、すごく高いレベルを目指すことではないのです。生きがいは人それぞれですので、”その人の”生きがいを一緒に目指せばいいわけです。
さきほど書いたお酒の例のように、意外なところにQOLを向上させるヒントが転がっていることが多いです。それを知るためには、とにかく相手を知る努力をすること、それしかありません。
最近会った人にこんなことを教えてもらいました。
「その人の+αを考えよう」
食事や更衣、整容など5つの日常生活では表現できない、+αの行為にこそ、QOL向上のヒントがあります。+αがない生活ってつまらないじゃないですか。
ADLとQOLの違いが分からなくなった際には、目標転換の視点と+αを探すこと、その2つを大切にしましょう。